「覚悟の帰結」

f0201348_14595310.jpg 早朝、新聞を取りに出ると、ほど良い冷気が頬を伝わってくる。習慣づいているガレージの朝顔の棚に目を遣ると、秋天に二つ三つと淡い紅色の蕾が開いている。しかし、その姿は季節の流れのままに、心なしか元気なく花弁の先端が萎えている。
そして、顔を洗う水道水は寒気に反比例して日々温みを増している。
 例年なら青空につられて山登りへと徐々にピッチの上がる季節であるが、山が果てしなく遠い。緊急入院して3週間、深夜の連絡があるかも知れないと晩酌も叶わない日々。

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 気管切開により口に挿管されていた管がなくなり、鼻から胃へ通っている細いカテーテル1本のみとなっている。入れ歯のない老母の口元は陥没しているものの、すっきりとして今にも「気分が良いよ」と話しかけてきそうな表情で寝ている。心拍数や血圧は落ち着いているが、今までのように私達の話しかけや書いた字に頷いたりする仕草は薄いでいる。また、循環機能が減退しているせいか導尿量が少なくなりく全身の浮腫が際立つ。枕をしている顔は良しとしても、か細かった手足は痛々しいほどに腫れあがり、圧痕は深く、暫く消失することはない。

f0201348_19164118.jpg 21日は白寿の祝い。飾りやケーキは壁や枕元にあるがご馳走は並ばず、祝う酒も無い。唯々、ベッドの周りで声を掛けたり、機械に表示された心電計や人工呼吸器、血圧の数字を見ながら病状について語り合うだけである。意識が朦朧として機械による延命の段階に入って来てるのかも知れない。

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 母への心遣いにより山から遠ざかっている分、菜園へは皆勤で冬野菜の播種や苗の植え付けは捗って、昨年は10月上旬にした作業を今年は半月以上も早く仕上げている。
 誕生会の翌日も朝食後に戸惑いもなく畑へと出かける。防虫ネットを張りを終え、予定外の秋ジャガの畝を耕していると、呼び出し音に気付いたSDが携帯を手渡してくれる。病院から「容態が急変しましたので直ぐに来て下さい」との連絡であった。
 受信履歴を開くと20分ほど前から3回かかって来ていた。勿論、覚悟の上のことで取り乱すこともなくバタバタと片付けて1時間半後に病院へ駆けつける。ベッド脇に数台あった延命器具、心拍数や血圧を逐次表示する診断器具と点滴用具は跡形もなく片付けられ、ベッドのみの空間の広い病室に様変わりしていた。そして、苦しみから解放され穏やかな顔で母が目を閉じ、白い布が胸元の程よい位置に置かれていた。
 主治医から延命相談の判断を迫られることなく、また”せめて誕生日まで”との私達の最後の望みも叶えてくれ、私に心の閊えもなく、”有難う”と兄弟姉妹に聞こえないように言いながら温かみの残る額を撫でる。

f0201348_20453024.jpg 誕生会に病室を飾った孫達からの折鶴やトンボの切り絵などを袋にしまい、病院の裏口から二人の看護師さんに見送られる。業者に態々お願いして姉二人が母の亡骸に同乗し、海沿いの道を迂回しながら私は自宅へと先導する。そして、霊前の写真や棺に入れる記念の品物を携えて葬儀場へ向かう。
 母の面倒を最後まで姉夫婦と兄嫁に頼り切っていたが、葬儀についての万端も義兄が整えてくれ、私は今は亡き長兄の代わりに喪主として務めるのみであった。

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                        (ガレージの上で咲いたハイビスカス:今年の一番花)
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by 1944tourist2004jp | 2012-09-24 15:31 | その他 | Comments(8)
Commented by 風来坊 at 2012-09-24 20:19 x
こんばんは、甘党さん。
この度はご愁傷様でした。お母様の最後を見とれなかったのは寂しいでしょうが、生きている内に看病されたようですので、お母様も安心して旅立たれたのだと思います。合掌。
しばらくは何かと忙しいと思いますが、お体に気を付けて下さいませ。
Commented by K-tooko at 2012-09-24 21:18 x
記事を拝見しながら お姑様のことを思い出しました。
こころに 穴が空いたようで辛いですね。

心よりご冥福をお祈りいたします
Commented by 1944tourist2004jp at 2012-09-24 22:33
今晩は、風来坊さん。
 コメントありがとうございました。二人の最後の親でした。
姉夫婦が面倒見ていたので、これからの法事も全て姉夫婦が段取りしてくれることでしょう。
畑の管理も先取りしていますので落ち着いたら山登りを考えています。
Commented by 1944tourist2004jp at 2012-09-24 22:39
今晩は、k-tookoさん。
 コメントありがとうございました。99歳プラス1日の大往生でした。
喪主を務めるのは初めてでしたが、2度とないことを願うばかりです。不思議ですが、私達以上に孫達の悲しみが大きいようです。
Commented by 海彦山彦 at 2012-09-26 10:13 x
この度は、ご愁傷さまでした。
大往生とは言え、悲しみは同じですよね。
私も今年の始めに義母を亡くしました。
お疲れの出ないようにしてください。
Commented by 1944tourist2004jp at 2012-09-26 10:43
海彦山彦さんお久しぶりです。 
 コメントありがとうございました。
私はずっと面倒見ていたわけではりませんので特に疲れはないのですが、骨壺を見るとやはり寂しくなりました。
Commented by 山好花子 at 2012-10-01 09:41 x
 ご無沙汰申し上げております。
 久しぶりに開いたブログで、お母上様の悲報に接し、心よりお悔み申し上げます。
大往生だとは言え、お寂しい事と存じます。顔を見るだけでも良いのですが、、、会いたくても二度と会えないのが寂しいですね、、、。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
                     合掌                      
Commented by 1944tourist2004jp at 2012-10-01 11:09
おはようございます。
 コメントありがとうございます。
二度と会えませんが、お袋の良いところばかりを思い出しながら懐かしんでおります。 
 本当にお久しぶりです。山に勤しんでいる貴方の姿が思い出されます。来年のアケボノツツジは大崩山と決めております。


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