小杉谷集落と学校跡を後にしてトロッコ道の鉄橋を渡る。
単調な風景に、彼とレイチェル・カーソンの「沈黙の春」に始まるエコ話をしながら早足で荒川口へ向かう。
途中からトロッコ道の支線に入り10数分歩いた所でブッシュの隘路に入って行く。
すると、そこは上流も下流も河床は激流に転がり摩耗しながら丸くなった花崗岩に埋め尽くされた涸沢風の景色である。そして、私達が下りて来た所だけが伏流水の溜り場のように透明感のある清流となっている。原生林の中に忽然と隔絶された別天地である。裸になって飛び込み、20数mあるだろう対岸にまで泳ぎたい心境にあるが、この清流を見ると何故か心臓麻痺の心配が脳裏をよぎる。
余談になるが、60歳前まで近所のスウィーミング・プールで1,500mを一気に泳いでいたので水泳には多少自信がある。
彼から薦められて、素足を底まで見通せる澄んだ水の流れに任せると、その冷たさが心地よく上半身に伝わり全身の疲れを癒してくれる。
花崗岩のクラックに息づく「ヤクシマサツキ」や河を囲む原生林と白骨樹、3人だけで自然を満喫していると、数人の女性を連れた彼のガイド仲間が下りて来る。
私が夫婦杉に置き忘れたストックを掲げながら、「島津さんありましたよ!」と声をかけて来た。
カメラに夢中で置き忘れたストックを、下山中に出合ったガイド仲間の方に、彼がお願いしていたものである。偶然に同じルートを下りて来たとしか思えないが、彼らには「阿吽の呼吸」で通じていたのだろう。
30分ほど渓谷を楽しみ、ストックを届けてくれた一団に場所を譲り、小杉谷の渓谷沿いに敷設されたトロッコ道を荒川口へとひたすら下って行く。
『「屋久島紀行 No.22」(一路荒川口へ)に続く・・・』
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