深夜の豪雨を微かに記憶しながら、4時過ぎには目が覚める。
5時10分前に玄関口で登山靴を履いていると、島津さんが前触れもなくにゅっと入って来る。勿論、初対面としての挨拶を交わす。
車の助手席には黒のベレー帽を被った女性スタッフがいる。
積み込みをそそくさと済ませ、昨晩民宿「志保」さんに予約して頂いた朝と昼の弁当を買って、昨日登ったばかりの「ヤクスギランド」へと向け4WDが闇を疾走する。
昨日も感じたが、こちらの人はカーブでクラクションを全く鳴らさない。
この大自然に不必要な雑音を撒き散らさないように、また野生動物を驚かさないように無意識のうちに行動しているのかも知れない。
後で聞いた話であるが、妻は「ヤクスギランド」からの3分間、超スローな世界を実感していた」と言う。
私が修験道の山「求菩提山」で感じた、俗界と聖界の際で感じた数分間の身震いに似ている。
「ヤクスギランド」を過ぎ、かなり走った所で1台のワゴン車に沿って路肩に停まる。
「登山口の駐車場が満杯なので、ここで朝食を済ませて登山口まで歩きましょう!」と島津さん。
道路の傍には原生林を暗示するかのように、「樅」らしき大木が黎明の空にすっと2本背筋を伸ばしている。
早朝にも拘わらず私達二人の食欲は旺盛である。
清澄な空気を胸一杯に呼吸しながら100mほど歩くと「淀川登山口」に中り 早くも10数台の車と登山客で賑わっている。
準備体操をして、鉄のパイプに「協力金」二人分の千円を入れ、案内掲示板を前にして彼から今日の行程を詳細に説明して貰う。
湿った木段を数段、愈々6時20分に世界遺産の「屋久杉の暖帯性雲霧林帯」の原生林に分け入る。
『屋久島紀行 No.8(宮之浦岳:淀川小屋へ)に続く・・・』
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